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公務員のパワーハラスメント

上司から「役に立たない」「ばかだ」県職員自殺

 静岡県は18日、部下にパワーハラスメントをしたとして、課長級の男性職員(59)を減給10分の1(3か月)の懲戒処分にした。パワハラを受けた職員は2017年3月に自殺した。県は「パワハラの影響があったとみられるが、因果関係は調査中」としている。

 県によると、課長級の職員は同年1~3月、自殺した部下に対し、同僚の前で「役に立たない」と侮辱したり、2人きりの時に「ばかだ」とののしったりした。

 自殺後、遺族がパワハラの録音データを県に提出。県は第三者委員会の調査を踏まえてパワハラを認定し、今月14日、遺族に謝罪した。課長級の職員は調査に「パワハラの認識はなかったが、不適切な発言が出た可能性はある」と話したという。

 県は自殺した部下の性別や年齢などを公表していない。県によると、遺族は「減給処分は軽すぎる。県にも憤りを感じる」と話しているという。
The Yomiuri Shimbun

70歳雇用

70歳雇用の条件  呉越同舟の政労使―賃金・働き方改革不可避。

 「すべての人が元気に活躍し続けられるよう人生二毛作、三毛作を可能にする社会を実現する」。安倍晋三首相は昨年12月21日、首相官邸で開いた会議で経団連の中西宏明会長らに語りかけた。中西氏は「経験豊かな人たちを会社に取り込んでいく」と応じた。

3年改革第1弾
 首相が自民党総裁選で打ち出した全世代型社会保障に向けた3年改革。継続雇用年齢の引き上げは第1弾だ。一律で義務付けられれば負担増になるとの経済界の不安は今、影を潜めた。

 「ステップ・バイ・ステップ」。政府が進める検討作業の大原則だ。70歳まで雇用するにしても、地域でのボランティア活動や、グループ会社での再雇用など、就労確保の選択肢を幅広く認める案が浮上している。企業と従業員の個別事情に応じて手法を選べるなら負担は大きくならない、と受け止められている。
 

労使の代表が直接参加する未来投資会議が検討の場となり、労働組合側も表立った反発はしていない。
 連合の神津里季生会長は「意欲ある高齢者が自らの意思で希望し、働き続けられることは歓迎」と語る。気にかけるのは生活保障や健康確保などの安全網だ。

 70歳までの継続雇用を望んでも、提示された賃金や労働条件から選択できない人が出るとみる。高齢者の健康状態には個人差があり、労災防止策も欠かせない。神津氏は「産業分野ごとの議論が必要。一律に就労を強いるのはむしろ反対だ」と意見の反映を求める。

 政府は夏に基本方針を定め、2020年の通常国会に法案を出す方針。成立を経て施行されるのは21年以降だ。自民党の小泉進次郎厚生労働部会長は「現実的なカレンダー」と話す。今夏の参院選などと重なる3年改革の前半は安全運転に徹する首相戦略でもある。

「負の作用」懸念
 懸念もある。八代尚宏・昭和女子大学特命教授は「能力差の大きい高齢者を画一的に優遇すれば、若年層が雇用機会を奪われる」とみる。70歳雇用で新卒の採用が奪われたり、若年層の賃金が抑制されたりする「負の作用」への危惧だ。

 経済協力開発機構(OECD)は昨年12月、日本は非正規社員で働く高齢者が多いとして定年制や賃金制度の見直しを提言した。70歳雇用が非正規社員の形で進んでいけば、正社員との格差が広がる可能性がある。

 能力の高い高齢者がいても、年金の受給額と同じ賃金水準で安く使おうとするなら働く選択肢はとらない。逆に、能力が低いのに高賃金が維持されれば若い世代の働く意欲はそがれる。それは不幸な70歳雇用だ。

 年齢と関係なく、能力と賃金が見合うようにする。働き方に柔軟性を持たせ、高齢者や女性が仕事を続けられるようにする。そんな雇用システムへの移行が70歳雇用の前提となる。

 不当解雇の金銭解決制度など労働市場の活性化を狙った改革は労使対立で進まなかった。景気に陰りが出てきたら企業はシニア雇用を整える余裕を失う。経済が安定している今なら賃金や働き方の改革論議を深められる。労使を抱き込んだ政治の役割はそこにある。

日本経済新聞

確定拠出年金(DC)制度を導入する企業

企業年金、選択制DCって?―加入するか否かを従業員が判断

 確定拠出年金(DC)制度を導入する企業が増えています。導入済みの企業は2018年11月末時点で3万1957社と、3年ほど前に比べて約1万社増えています。自分の勤め先にもDC制度があるという人は多いはずですが、加入するか否かを社員に選ばせている企業が多いことはあまり知られていません。「選択制」と呼ばれるその仕組みについて解説します。

 確定拠出年金は新しい企業年金制度として2001年から導入できるようになりました。どんな金融商品で運用するかを加入者が決め、その運用成績によって将来受け取る年金額が変わります。

 従業員が制度に加入した場合、掛け金は企業が負担します。その金額は、月5万5000円(確定給付年金制度を併せ持つ企業は2万7500円)を上限として企業が定め、資金を拠出していきます。

 確定拠出年金の導入の際には労使間で、社員はみんな加入者になるなどという取り決めを交わすのがこれまで一般的でした。しかし、企業によっては従業員の意思を尊重するといった理由から選択制としています。その数は不明ですが、ここ数年の主流になっているそうです。

 選択制では制度に加入するかしないかの判断が従業員に委ねられます。希望する人は勤め先の窓口に加入の申し込みをします。不要だと考える人は申し込まなければ加入者になりません。

 図は選択制を導入する企業でよくあるイメージです。ある社員の月給はもともと40万円です。制度の導入後、本人が加入を選んだ場合、企業は月2万円分を年金の掛け金として拠出します。その代わり、月給を同じ額だけ減らして38万円にします。

 中には給与に上乗せして掛け金を拠出する企業もあるようですが、給与を減額する方式にすれば企業は負担を増やさなくて済みます。一方、制度へ加入しない従業員に対しては、従来と同じ40万円の給与を支払います。

 将来のための年金原資とするよりは、生活費がかさむ今、2万円分を受け取った方がよいと考える人もいるでしょう。しかし、単純に損得を考えた場合、加入を選んで掛け金としたほうが有利です。

 まず給与収入には税金がかかりますが、掛け金であれば収入に含まれず、その分、所得税などの負担が減ります。月2万円、年24万円分、給与が少なくなれば、税率20%の人で単純計算して年4万8000円を節税できます。

 厚生年金保険料や健康保険料といった社会保険料も収入に連動します。給与が少なくなればその分、保険料負担は減るのが通常です。厚生年金については保険料の納付額が減って将来もらえる年金額が減る可能性はありますが、多くの場合、現役時代に税・社会保険料を軽減できるメリットのほうが大きくなります。

 確定拠出年金へ加入すると原則60歳になるまで資産を引き出せませんが、毎月の掛け金額を途中で見直すことは可能です。社会保険労務士の池田直子氏は「住宅ローンの返済や子どもの教育費などで収入が足りなくなったら、掛け金を減額することを考えたい」と助言します。

日本経済新聞

助成金手続きのオンライン化

  • 2019-01-10 (木)
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オンラインで手続き完結、社会保険や補助金申請、中小の負担軽く、20年度から

 政府は2020年度から、主に中小企業向けに行政手続きを簡素にする方針だ。補助金の申請や社会保険の手続きについて、オンラインで完結できるようにする。中小企業でも人手不足が深刻になり、20年度からは時間外労働の上限規制が適用される予定だ。役所の都合で膨らんできた企業の業務負担を大きく軽減し、効率的な働き方の実現を後押しする。

 行政手続きの簡素化は、法人のマイナンバーにあたる法人番号を行政サービスのIDとして活用する。IDとパスワードを組み合わせ、ネット上ですべての手続きを済ませられるようにする。

 政府の規制改革推進会議で情報の保護などセキュリティー面などの課題を詰めたうえで、19年半ばに改革案をまとめる。19年度は経済産業省がものづくり補助金などを対象に先行して始め、20年度から全省庁に広げることを想定している。

 補助金の申請では、紙の申請書を作ったり、窓口を訪問して書類を提出したりする必要がなくなる。補助金の申請には決算情報を3年分提出する必要がある。社名や資本金などを含め、こうした基本情報はいったんオンラインで入力すれば登録され、別の補助金の申請でもそのまま使える。補助金によってばらばらだった申請様式も統一される。政府は利用を拡大するため、地方自治体にも広く参加を促す方針だ。

 社会保険に関する手続きでは、20年度から厚生年金や雇用保険などについてID方式を導入し、オンラインで済ませられるようにする。中小企業では従業員が就職・退職するたびにハローワークや年金事務所など複数の窓口に出向いて書類を提出する必要があった。

 これまでも政府は行政手続きのオンライン化を進めてきたが、結局は手続きの途中で窓口を訪れる必要があったり、電子署名と呼ばれる証明書を取得するための費用がかかったりするなど、使い勝手が悪いとの声が多かった。中小企業の業界団体などは「省庁共通のルールで簡単な手続きにしてほしい」といった要望を政府に出していた。

 大企業では補助金や社会保険などを取り扱う専門の担当者がいることが多いが、従業員が少ない中小企業では、行政手続きそのものが大きな負担になっている。18年には働き方改革関連法が成立し、最大でも年720時間とする残業規制の導入が決まった。大企業は19年度からだが、中小企業は20年度から適用される予定だ。

 内閣府の調査では補助金の1件当たりの作業時間は37・6時間、社会保険は2・1時間かかっている。中小企業は小規模事業者を含めて約360万社あり、日本の企業数の99%を占める。中小企業に負担を強いるお役所仕事を効率化すれば、日本全体の生産性向上にもつながるとみている。

日本経済新聞

労災適用でフリーランス支援

フリーランス支援、法整備、厚労省、労災適用など検討、デジタル経済へ対応。
インターネット経由で請け負う仕事が広がり、独立自営で働くフリーランスが増えている。働き方を自由に選べるようになる一方、弱い立場になる人も多い。厚生労働省はフリーランスの仕事中のケガや病気を補償する労災保険の適用や、取引先企業と対等な立場を保つための契約ルールの整備を検討する。デジタル経済の進化に向け、健全な労働環境を整える。

特定の企業に専従せずに技能を提供することで報酬を得るフリーランスは、もともとカメラマンやコンサルタント、小説家など限られた領域の働き方だった。

ところが経済のデジタル化やシェアエコノミーの進展によって、IT関連の独立技術者やネット経由で仕事を請け負う「クラウドワーカー」が拡大。クラウドソーシング大手のランサーズ(東京・渋谷)によると、広義のフリーランスは2016年に1千万人を超えた。

時間や場所に縛られない働き方に魅力を感じ、会社勤めを辞めて独立する人が目立つ。介護や育児など様々な制約を抱えながら働く人の選択肢にもなっている。

ただこうした労働市場の拡大に伴い、働き方の課題が浮上している。一つは特定の企業に仕事を依存して実質的に労働者のような立場に置かれた人が多いことだ。

独立した個人事業主であるフリーランスは本来取引先企業と対等な立場だが、契約書がなかったり、一方的に報酬の減額を強要されたりする例が指摘されている。厚労省のヒアリングでは「契約にない新人社員の教育を強要されることもある」との報告もあった。

労働政策研究・研修機構の17年の調査によると、1年間の仕事の取引先が1社しかない人が4割を占めた。主な取引先との契約内容を「協議して決定した」人は47%にとどまり、「取引先が一方的に決定」が24%、「やり取りはなかった」も14%に上った。

契約や支払いに関して企業と企業の取引ルールは下請法で規定されている。個人であるフリーランスも対象だが、取引先の資本金などに応じて全員には適用されず、法の死角になっているのが現状だ。 厚労省はこうした働き方を「雇用類似」と位置づけ、労働法制による一定の保護を導入する方向だ。具体的には、取引先との契約内容を書面などで明確にすることを検討する。トラブルの相談窓口や報酬の支払い遅延・減額を禁止するルールの整備を求める声もある。

さらに、フリーランスへの労災保険の適用も検討する。いまは病気やケガへの安全網がなく、貯蓄を取り崩して生活費を賄う事態になりがちだ。仕事や通勤中の災害でケガや病気になった際に療養費や休業に必要なお金を給付する。

通常、労働者を雇う企業が保険料を全額負担するが、フリーランスは自己負担とする方向で調整する。個人タクシーの運転手や大工、左官らを対象にした特別加入の枠組みを広げる方向で、デザイナーや技術者などが新たに入る可能性がある。厚労省は保護策の方向性を19年夏にも有識者検討会でまとめる方針だ。

フリーランスについては公正取引委員会も昨年2月、独占禁止法で保護する運用指針をまとめた。企業が秘密保持を盾に他社との契約を過度に制限したり、イラストやソフトなどの成果物に必要以上に転用制限をかけたりすれば、「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあると指摘。賃金の上昇を防ぐために企業間で引き抜き禁止を取り決めることも独占禁止法違反になりうると明示した。

日本経済新聞

シニア社員に成果重視の賃金制度の助成金

シニア社員に成果重視の賃金制度の助成金

 シニア社員の処遇を改善する動きが企業に広がってきた。60歳の再雇用時に減額されることが多かった基本給を引き上げるだけでなく、成果報酬の導入や責任の重いポストの用意で就労意欲を高めるようとしている。政府が目指す70歳まで働く社会づくりにはシニアの活躍が欠かせない。厚生労働省はこうした流れが中小企業にも浸透するよう補助金で後押しする。

 60歳以上で働く人の数は2017年度平均で約1340万人。就業者全体の2割を占める。高年齢者雇用安定法では希望者全員を65歳まで雇うよう義務づけており、就業者は増えている。

 厚労省によると65歳まで雇用を確保するために企業が導入しているのは8割が継続雇用制度だ。60歳で定年を迎えると嘱託などで再雇用する。この際、賃金は2~3割下がるのが一般的。60~64歳の平均賃金は月27・5万円と55~59歳の36・4万円を大きく下回る。

 ただ、年齢を理由に一律で賃金を下げる仕組みは働き手の意欲低下につながりかねない。能力のある技術者らは中国など新興国の企業に転職する動きもあり、人材流出につながる面もある。

 こうしたなか、就労意欲を高めるためにシニアの処遇を見直す企業が増えている。味の素AGFは18年7月から60~65歳の再雇用のシニア社員の給与体系を見直し、賞与も成果を反映するように制度を変えた。これによって年収は従来と比べて3割増えるという。

 週休3日制を導入したほか、勤務地の希望も出せるようにして、シニア社員の待遇を改善し、働き手を確保する狙い。若手へのノウハウ伝承などに力を発揮してもらう。
 JR西日本は18年度から再雇用したシニアの基本給を加算する待遇改善に合わせて、働きぶりに応じた給与で報いる姿勢を鮮明にした。出勤日数に固定額で支払う「精励手当」を勤務成績が「優秀」なシニアだと4万円から5万円に増額。「特に優秀」だと6万円から10万円にアップさせた。

 一方、出勤停止になったり、勤務成績がよくない場合は減額したりしてメリハリをつける。「一層の活躍に期待し、モチベーション高く業務に精励してもらうため」と担当者は狙いを話す。

 ポストで処遇する企業もある。自動車部品メーカーのヨロズは70歳まで雇用年齢を引き上げたのに合わせて1年契約でそのまま管理職を続けてもらう「職制契約社員制度」を設けた。従来の嘱託社員だと給与は定年前の7割の水準に下がるが、同制度の社員だと減額なしで100%もらえる。

 ベアリング大手のNTNも18年度から再雇用シニアの給与を年収ベースで25%引き上げた。プロジェクトリーダーなど一部役職への任用もできるようにしており、経験を生かして専門能力を発揮してもらう。

 大手よりも人手不足が深刻な中小企業にもこうした取り組みを広げようと、厚生労働省はシニア社員を対象に成果重視の賃金制度を導入する企業に補助金を出す。年齢ではなく人事考課によって給与が変動する職務給の比率を高めるなど給与制度を見直した場合に1社あたり最大22万5千円の補助金が出る。財源は雇用保険から拠出する。

 15~64歳の生産年齢人口は40年に6千万人を割り込み、15年と比べて1600万人余り減る見込みで、経済成長を続けるには高齢者の労働参加が欠かせない。ただ企業が人件費を増やさずにシニアの処遇を厚くすると60歳未満の賃金水準が下がりかねない。人件費増を吸収する生産性の向上や、年齢ではなく能力に応じた給与・人事体系にすることが重要になる。

日本経済新聞

診察時の通訳費を加算

診察時の通訳費を加算 訪日客に「医療」以外を転嫁へ 厚労省目安

厚生労働省は、通訳の確保など医療行為以外のコストのかかる外国人の診察に関し、コスト分を患者に転嫁できるよう算定の目安を定める。訪日客など外国人患者は今後も増える見通し。同省は、医療機関の経営への影響などを考慮。今年度中に、患者にコスト分を請求する際の算定方法などの具体例を示す。

厚労省が「月50人の外国人患者のある中規模病院」を想定し、医療行為以外にかかる追加コストを試算したところ、「ウェブサイトの多言語対応など初期費用」に50万~200万円、「通訳や外国語対応できる看護師の確保など運営費」に年1800万~2600万円がかかる。患者1人当たり3万~5万円に相当する。

だが、厚労省の調査(2016年)によると、8割の医療機関が外国人患者に追加コスト分を請求していなかった。一方で通常の医療費の2~3倍に設定しているケースもあり、国民生活センターに「喉に刺さった魚の骨を大学病院で取り除いてもらったら5万円近くも請求された」と中国人からの苦情が寄せられた。

4月には外国人労働者受け入れを拡大する改正入管法の施行も外国人患者増加の要因になりそうで、同省は、放置すれば地域医療の混乱を招きかねないと判断。患者の理解を得られるような方策を示す。追加コストに基づく患者負担の積算方法を示すことなどが想定される。

毎日新聞

固定残業代100時間

社会問題化する「固定残業代100時間」 自販機ベンダー業界からの告発

 あなたの給料には100時間分の残業代があらかじめ含まれているため、月に100時間を超えて残業しない限り残業代は一切支払われません。

 このようなことを勤め先から言われたら、あなたはどう思うだろうか?

 こうした長時間労働を前提とする固定残業代を告発する動きが自販機ベンダー業界に広がりつつある。

 先月20日にも、個人加盟の労働組合・ブラック企業ユニオンが96時間分の残業を含むとする固定残業代の違法性を主張して、複数の自販機ベンダー企業と団体交渉を始めたというのだ。

96時間分の固定残業代とその労働実態

 ブラック企業ユニオンが新たに団体交渉を申し入れた企業は、飲料自販機業界で中堅規模の大蔵屋商事株式会社である。

 同ユニオンは以前から飲料自販機業界の違法労働を問題化してきた。昨年はサントリーグループのジャパンビバレッジ東京の数々の労働問題を是正させている。

 
 

 昨年末まで同ユニオンには自販機ベンダー業界からの告発が次々と寄せられており、今年も自販機業界の労働問題の告発が続いていく状況だという。

 では、自販機ベンダー業界ではどのような労働問題が広がっているのだろうか。それは、冒頭でも示したように、月給に100時間近くもの残業代を含みこむというもの(これは違法・無効である)だ。

 大蔵屋商事では、初任給約28万円のうち、基本給に当たる部分が16万5千円で、残りの11万5千円が96時間分の残業に相当する固定残業代として運用されている。この契約内容では、過労死ラインとされる80時間の残業をしても、実質的に残業代は支払われない。

 ここで大蔵屋商事のルートセールス職(トラックで飲料自販機の巡回・補充をする)の労働実態を紹介しておこう。

 繁忙期の夏場には、従業員の多くは朝5時頃に出勤する。1日に30台前後の自動販売機を巡回するため、トラックで1日当たり約60~80キロメートルを走行する。

 その間、休憩と呼べるような休憩はなく、信号待ちの時におにぎりやパンをかじる余裕があればよいほうだ。すべての巡回が終わり、営業所に戻るのが夜5~7時頃である。そこから営業所内で入金作業や翌日分の飲料の積み込み作業などがあり、退勤時間は夜8時~9時頃になる。

 このように、同社の自販機補充労働の一日当たりの労働時間は約15時間、残業時間は約7時間にもなっている。休日出勤分を除外しても、月間労働時間は約330時間、月間残業時間は154時間。

 まさに「殺人的」な長時間労働である。

固定残業代の何が問題か?

 このような究極のブラック労働を「合法化」する仕組みこそが固定残業代なのである。

 固定残業代の問題点の一つは、残業代支払義務に伴う長時間労働の抑制効果が失われることである。残業代を払うというコスト意識が無くなると、労働時間を減らす努力も失われてしまう。

 もちろん固定残業代を導入しても、本来は固定残業代に相当する残業時間を超過した分については残業代の支払いの義務がある。

 だが、多くの経営者は、長時間の固定残業代を導入すると、いくら残業をさせても追加の賃金を支払う義務が無くなる「定額働かせ放題」の制度として運用してしまっている。

 実際、大蔵屋商事の経営陣は、96時間を超えて残業させても、超過分の残業代を一切支払っていなかったと認めているという。

 また、固定残業代は、求人票の賃金を多く見せ、求職者の誤解を誘う効果がある。長時間の残業代を含んだ賃金総額を提示することで、まるで条件の良い求人のように「偽装」しているのだ。

 大蔵屋商事では、給与総額は30万円近くあっても、時給換算するとほぼ「最低賃金」と同額となる。

 興味深いことには、同じ11万5千円の固定残業代に相当する残業時間数が、地域の最低賃金の額にすり合わせて、営業所ごとに少しずつ異なっているのだ。

 図表に示したように、埼玉県内の営業所の求人では96時間分を、神奈川県内の営業所の求人では93.5時間分を、東京都内の営業所の求人では92.9時間分を固定残業代に含むと記載されている。

 いずれも時給単価が、各都道府県の最低賃金をギリギリ上回るように設定されている。

 「最低賃金」といえば、非正規雇用労働者の低賃金をイメージされる方が多いかもしれないが、昨今は正社員でも最低賃金水準で働く労働者は多くいる。

 上記のように、固定残業代が悪用されると、月給制の正社員で額面約30万円の契約でありながら、最低賃金水準の時給単価で、過労死ラインを超えて残業を強いることができる。

 「低すぎる最低賃金」は、非正規雇用だけではなく、こうしたブラック企業の正社員の労働条件を引き下げ、「働かせ放題」を合法化し、過労死をも促進する効果を持っているのだ。

長時間労働を前提とした固定残業代は合法なのか?

 ここで、次のような疑問が浮かぶ方も多いだろう。

 果たして、長時間残業を前提とした固定残業代を含む労働契約は、法的に有効とされるのだろうか?

 実は、こうした固定残業代の有効性については、既に東京地方裁判所が判断を下している。

 ややこしいことを抜きに言えば、「100時間」もの固定残業代はひどいからそもそも法的に無効だ、という判決である。

 具体例としては、漫画喫茶で有名な「マンボー」で起こされた裁判がある。マンボーの店員は1回12時間のシフトで接客や電話対応などに従事していたのだが、その固定残業代が無効となった結果、裁判所は会社に1500万円の支払いを命じている。

 判決文を紹介しておこう(ややこしいので必ずしもこれを読まなくても本記事の続きはわかるように書いている)。

【マンボー事件、東京地裁・平成29年10月11日判決】

 仮に本件固定残業代についてX<労働者>の同意があったとしても,本件労働契約においては当初から、労働者の労働時間の制限を定める労働基準法32条及び36条に反し、36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100時間以上の時間外労働が恒常的に義務付けられ、同合意は、その対価として本件固定残業代を位置付けるものであることからすると、36協定の有効性にかかわらず、公序良俗に反し無効である(民法90条)と解するのが相当である。

 ※括弧<>内は筆者による補足。

 たとえ労働者が固定残業代について「同意」していたとしても、月45時間を大きく超える時間外労働を含む固定残業代は、公序良俗(≒常識)に反し無効であるということである。

 そして、その場合には多額の不払い賃金が請求できるのである。

 (尚、45時間という数字の根拠は「36協定の延長限度額に関する基準」(平成10年12月28日労働省告示第154号)である)。

 

固定残業代が無効とされれば多額の残業代を請求できる

 固定残業代が無効と判断されれば、膨大な未払残業代が発生することになる。

 たとえば、週に40時間働き、固定残業代が100時間、月給17万6000円で、実際には120時間の残業をしていた場合のケースで考えてみよう。

 固定残業代が「有効」とされる場合では、固定残業代を越える20時間分の残業代が未払いとなり、月に2万5000円が追加で請求できる。

 これに対し、固定残業代が「無効」とされた場合には、固定残業分100時間すべてに割増賃金が発生するので、一月あたりの未払い残業代は、なんと25万6500円にもなる。

 つまり、本来の「月給」よりもずっと多い額が追加で請求できるのである。

 以下に、その計算式を示しておいた(この計算式は簡略化しているため、いくつか請求できるものを省いており、実際にはさらに大きな額を請求できる)。

想定する労働条件

所定労働時間8時間/日、40時間/週、176時間/月

賃金:基本給176,000円、固定残業代125,000円(残業100時間分に相当)

月の残業時間:120時間

割増率:1.25倍

(1)固定残業代が有効とされた場合

基本給176,000円 ÷ 一月の所定労働時間176時間 = 時間単価1,000円

一月の残業時間120時間 - 固定残業代に相当する残業時間数100時間 = 未払の残業時間数20時間

時間単価1,000円 × 未払の残業時間数20時間 × 割増率1.25倍 = 一月当たりの未払残業代25,000円

(2)固定残業代が無効とされた場合

基本給301,000円 ÷ 一月の所定労働時間176時間 = 時間単価1,710

※固定残業代に相当する金額が基本給部分に組み込まれ、時間単価が上がる。

一月の残業時間120時間 = 未払の残業時間数120時間

時間単価1,710円 × 未払の残業時間数120時間 × 割増率1.25倍 = 一月当たりの未払残業代256,500円

 今回想定したケースでは、固定残業代が「無効」とされるかどうかで、未払残業代の額に約10倍の差が出る。

 これは特殊ケースではなく、80時間近くの長時間労働を前提とした固定残業代を採っている場合には、すべて当てはまり得る。

 このように、月45時間を超える長時間残業に相当する固定残業代を無効にすることができれば、多額の未払残業代を請求できる可能性がある。

 このような多額の「権利」が発生するのは、ブラック企業問題の告発が進む中で、裁判所の状況が変わってきたからだ。

 ブラック企業の経営者や彼らに指南する専門家は、固定残業制度を究極の「定額働かせ放題」の制度だと思って広げてきたのだが、最近では裁判所が、これを「無効」だと判断するようになってきたのである。

 少しでもこうした「定額働かせ放題」の状態に違和感があれば、ぜひ文末に記載した労働問題の専門相談窓口に相談してみてほしい。

背景としての飲料自販機業界の体質と、その改善に向けた動き

 さて、こうした「定額働かせ放題」の問題については、飲料自販機業界の労働者からの告発が相次いでいる。

 昨年は、筆者もジャパンビバレッジ東京の労働問題を何度も取り上げてきたが、年末には関西の山久という飲料自販機業者の労働問題がヤフトピで取り上げられるなど、業界全体が大きな注目を集めた。

 また、ユカという飲料自販機業者においても個人加盟ユニオンが組合をつくったとの情報も入っている。

 このように業界全体で労働が問題化している背景には、飲料自販機業界全般に広がる長時間労働、残業代不払いの体質がある。

 大蔵屋商事では違法性の高い96時間相当分の固定残業代を、ジャパンビバレッジでは違法な事業場外みなし労働時間制を導入していた(労基署から行政指導がありすでに廃止している)。

 いずれも「定額働かせ放題」の制度として運用されていた。また、山久でも基本給を最低賃金水準にしたうえ66時間相当分の固定残業代を導入していることが分かっている。

 こうした長時間労働や残業代不払いの横行は、飲料自販機業界が置かれている構造と切り離せない。

 大手飲料メーカーは、飲料自販機を利益率の高い重要な販路として位置づけている。コカ・コーラ ウエスト社では、飲料の販路の約3割が自販機だが、粗利益の約7割が自販機での販売から生まれているという。

 飲料自販機では定価近くで売ることができ、売り上げの40%程度が飲料メーカーの取り分となるからだ。

 飲料メーカーにとって、飲料自販機での売り上げ増は利益増に直結する。それゆえ、飲料メーカーは、飲料自販機会社各社に対し自販機の新規設置を促してきた経緯がある。

 他方で、飲料自販機会社にとっては、自販機の設置台数増は、利益増に直結しない。というのも、売り上げの低いロケーションでは、売り上げよりも諸経費の方が高くつくからだ。

 それにもかかわらず、大手飲料メーカーと中小企業の多い自販機会社の間では、力の強い飲料メーカーの意向が通り、自販機台数は世界一の水準にまで増えてきた。

 自販機会社からみれば、非効率・不採算の自販機も含めて自販機台数を増加させてきたわけだが、その皺寄せが最も弱い立場にあるルートドライバー職の労働者に押し付けられ、長時間のサービス残業に苦しめられているというのが問題の構図なのだ。

 前述のブラック企業ユニオンでは、こうした業界構造にメスを入れて、飲料自販機会社のルートドライバー職の労働環境を改善するため、飲料自販機業界を対象とした労働組合である自販機産業ユニオンの結成を準備している。

 自販機業界で働く方で、長時間労働や「定額働かせ放題」の現状を変えたいと思う方は、ぜひ組合加入を検討してみてほしい。

今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

未払残業代 病院

残業代1.2億円未払い、都立の小児病院、待機時間算入せず。

 国内最大級の小児病院、東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)が、医師らの夜間や休日の勤務に適切な賃金を支払っていなかったことが7日、センターへの取材で分かった。センターは昨年3月、立川労働基準監督署から是正勧告を受け、今年6月までに未払い残業代計約1億2千万円の全額を支払った。

 未払いだったのは約80人の医師を含む職員計約130人に対する2014年3月から2年間の残業代。

 厚生労働省は病院での夜間や休日の労働に対し、業務が検温など負担の少ない範囲にとどまり十分な睡眠が取れる場合のみ、時間外労働の割増賃金より安い「宿日直手当」で済ませることを認めている。

 センターは、午後5時15分から翌朝8時半までの夜間や休日の勤務に宿日直手当を適用。救急治療など実際の業務があった時間だけは割増賃金を支払ってきた。

 しかし労基署は、センターの夜間や休日の勤務は負担が少ないとはいえず通常と同様の労働に相当すると判断、待機時間も含め時間外労働として割増賃金を支払うよう求めた。センターによると、医師の夜間勤務は月平均で4~5回。救急患者は日中を含め1日平均約10人が来院するという。

 センターは病床561床で、常勤医師は約130人。「労基法違反を真摯に受け止める。医療の質を落とすことなく、労基署と相談しながら労務上の問題解決に努める」としている。

日本経済新聞

社会保険料徴収逃れ

海外法人悪用し保険料徴収逃れ、都内のタクシー会社。

 東京都内のタクシー会社が香港に設立したダミー会社を悪用し、厚生年金保険料を低く抑えていたことが25日、厚生労働省への取材で分かった。同省はさかのぼって数千万円の保険料徴収を求めるとともに、同様の事例が全国にあるとみて、日本年金機構に疑いのある事業所への調査徹底を指示した。

 厚労省によると、タクシー会社の事業主は、香港に別法人を設立。従業員は都内の会社に採用された後、香港の会社に転籍。そこから都内の会社に出向している形をとり、両方の会社から給与が支払われていた。

 従業員は香港の会社での勤務実態はなく、厚生年金が適用される都内の会社から支払われた給与は、職種や勤続年数にかかわらず一律15万円程度と、給与額に応じて納める保険料が著しく低く抑えられる“保険料逃れ”の状態だった。

 厚労省は、同社と従業員は、香港の会社から支払われた給与の分の保険料も納める必要があると判断した。

日本経済新聞

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