- 2017-10-04 (水) 11:04
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賃金、残業減でも維持を、経団連、企業に還元要請、春季労使交渉、働き方改革と両立。
経団連は2018年の春季労使交渉で、残業時間が減っても従業員の給与が大きく減らないよう企業に対応を呼びかける。働き方改革が進んでもその分給与が減れば、消費や生産性向上の意欲をそぐ可能性がある。残業代以外の賃金や各種手当の増額などでの対応を促す。脱時間給など多様な働き方の進展や賃上げの継続とあわせ、働き方改革後の還元策を求める。
経団連は来年1月、労使交渉での経営側の基本指針(経労委報告)をまとめる。賃上げを起点とする経済の好循環を掲げる安倍晋三政権の要請もあり、経団連はこの指針を通じて企業の従業員の給与を一律に底上げするベースアップ(ベア)や「年収ベースでの賃上げ」を呼びかけてきた。
榊原定征会長は3日、札幌市での記者会見で「賃上げの勢いを来年度も継続する必要がある」と表明した。将来不安の払拭と継続した賃上げが個人消費の底上げにつながるとの立場で、政権と共同歩調でデフレ脱却を目指す考えを示した。働く時間にとらわれない「脱時間給」の流れを確実にする狙いもある。
特に来年は働き方改革が本格的に始まって最初の労使交渉になる。改革の成果をどう賃金に反映していくかが焦点だ。
残業時間を短くする動きが企業に広がる一方、人件費の抑制・削減だけに狙いを絞った改革では経済の好循環にはつながりにくい。大和総研の試算では、残業時間が月平均60時間に抑制された場合、残業代は最大で年8・5兆円減るという。
このため経団連は、改革に伴う時間外賃金の減少分を社員に積極的に還元するよう促す。総人件費抑制に丸々つなげる動きはけん制し、指針では還元方法を示す。子育て関連手当の積み増しやボーナス、基本給に反映するケースを想定。教育訓練投資を増やすのも有力な手法とみている。
先取りの事例もある。トヨタ自動車は残業時間にかかわらず、月45時間分の残業代を支払う制度を拡充し、技術職や事務職の係長クラスに対象を広げる方針だ。紳士服大手はるやまホールディングスは17年4月、残業時間がゼロでも月1万5000円を支給する制度を始めた。判断は企業に委ねるため、対応にばらつきが出そうだ。
財務省によると、企業収益は16年度に75兆円。12年度に比べ54%増えたが、人件費の伸びは2・5%にとどまる。経団連には低下する労働分配率への批判をかわす狙いもある。安倍首相は9月の会議で「過去最大の収益をどう賃金や設備へ向かわせるか、予算や税制などの環境整備を検討する」と強調。経済界に引き続き賃上げを求めていく考えを示している。
賃金上昇の余地大企業にはある
みずほ総合研究所の上里啓エコノミスト これまでの賃金上昇は、人手不足が深刻な中小企業がけん引してきたが、中小企業の賃上げが大企業を上回る状態は持続可能ではない。企業収益全体から考えた労働分配率は低下傾向にあり、大企業には賃金上昇に振り向ける余地がある。残業代分の賃下げがそのまま消費の下げに結びつくとは考えていないが、短期的な賃金の下落局面を早く脱するための生産性向上が必要だ。生産性向上で賃上げ余力も生まれる。
「労働集約型」の業況改善不可欠
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮崎浩シニアエコノミスト 労使交渉にも「脱デフレ」の意識が定着してきたが、労働分配率でみると過去20年の平均より低い水準にとどまっている。足元の景気回復は大企業の製造業が中心で、企業収益の改善分を設備投資に回す「資本集約型」がほとんど。今後は中小企業や非製造業といった「労働集約型」の業況改善が物価や賃金上昇に不可欠だろう。政府も技能をもつ人材を輩出する環境づくりを急ぐべきだ。
▼春季労使交渉 賃上げの是非など毎年春に各企業の労使でかわす労働条件改善交渉。年明けから本格化し、3月半ばに集中回答日を迎える。ここ数年、賃金カーブ全体を底上げするベースアップが焦点になってきたが、政権側の要請もあり「官製春闘」とも呼ばれた。賃上げ率は4年連続で2%を超えたが年齢に応じて給与があがる定期昇給が大半。ベアは0・5%程度にとどまる。
日本経済新聞
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